補綴構造設計士・歯科技工士川島 哲の世界
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川島哲

歯科技工士第一世代 川島 哲

歯科技工士・ユニデント代表取締役。1991年、日本補綴構造設計士協会(PSD)を設立。
構造設計を基本とした川島哲(補綴構造設計士)臨床セミナーの受講者数は、現在までに
300名を越える。日本のキャストパーシャル界の第一人者。
著書の『1週間でマスターするキャストパーシャル〈上・下〉』、『バイオキャストパーシャル』
(ともに医歯薬出版)はいずれもロングセラーとなった。

質の高い補綴物は患者さんを知らずして作れない

院内ラボの減少が、患者さん本位の補綴物製作を遠ざけている

Q.いまの歯科界で大きな変化として感じておられることは何ですか?

川島:ひとつは、インプラント治療が非常に注目されているということですね。これは欠損補綴のオプションが増え、患者さんにとっても喜ばしいことだと思います。
一方で、その弊害もたくさん出てきていると感じています。過去において歯科医師は、まずインプラントを骨結合させることで、その失敗をいかに少なくするかに注目してきました。 確かに骨結合すれば強い咬合が可能になり、デンチャーに比べ数倍もよく噛めます。しかし、そればかりが注目され、生理学的な点についての究明がおろそかになっていたと感じています。 歯根膜負担のないインプラントの強い咬合力がフイクスチャーの早期崩壊を招いてしまいやすいという可能性もぬぐいきれません。事実、そうやってだめに なってしまった症例が増加傾向にあります。

次に院内ラボが減少し、開業歯科技工士が増えたことで、新たな問題が生じていると感じています。ある時期から歯科技工士が歯科医院から独立し、 歯科技工所として開業したほうがいいという風潮になりました。これにより歯科技工士と患者さん・歯科医院との間に、物理的にも精神的にも距離が生まれてしまった。 これが患者さんにとって不幸な現実を生んでいるだけでなく、歯科界全体の発展をも阻害する一因になっていると思います。

Q.それでは、今後このような変化が技工界にどのような影響をもたらすと思いますか?

川島:インプラントに関しては、どのようにその咀嚼力を制御していくか、つまり生体センサー(受容器)と人工的なものをどうリンクさせていくかに注目していくべきだと思います。 たとえば、近年禁忌といわれているインプラントと天然歯との連結により、隣在歯の菌根膜センサーを使うことも考えられます。連結してはいけない理由は、連結するとすぐ外れたり脱落したりすることが多かったからで、 咬合力の制御からみれば有利な場合もあると思います。
ですから、今後のインプラント治療は、そもそも「欠損とは何か、欠損補綴とは何か」といった口腔模倣としての補綴の根源的な部分をもっと見直していくべきでしょう。 さらには、欠損して補綴をするというような部分だけでなく、生体に対する知識が歯科医師のみならず歯科技工士により必要になってくるのではないでしょうか。

院内ラボの減少に関しては、患者さんがどのような苦痛をもって来院し、どのような補綴物を装着すると、どのような反応を示すかなど、歯科技工士が患者さんの生体情報をまったく得ることなく、 補綴物が製作されてしまうことになります。外注の技工所では、相当な努力をしない限りは機械的な分業となってしまいます。 そうなると、患者さん本位の補綴物製作とは程遠い存在になってしまう。質の高い補綴物は、患者と棟極的に関わり、生きた情報を知らない限りは作れないことを歯科技工土はもっと自覚しなければなりません。 そのため私は、これから就職しようという学生には、とりあえず歯科医院に就職するようアドバイスしています。

歯科医師にしても、もっと歯科技工士に対して許容範囲を広くし、自分たちの分野に受け入れていただきたいですね。歯科医師の中には、歯科技工士がシェードティキングをしただけで対面行為だととがめたり、 設計について意見を言われることを、いまだに嫌ったりする人もいるといいます。歯科技工士を、単に物を作るだけの職業と考えていては、患者さん本位の質の古い補綴物を作るのは難しいことを、理解していただきたいですね。

Q.いまの歯科技工士の労働条件や環境について、どう思われていますか?

川島:私はそもそも歯科技工という職業がきちんと確立され、認識されているとは思っていません。
たとえば補綴の基本設計やマスターモデルの咬合器マウントなど、本来歯科医師が担うべき補綴のプロセスをすべて歯科技工士に丸投げされても、その労働は正当に評価されないし対価も請求できていない。そんな一方的な現状で環境がいいわけがない…。
歯科技工士一人ひとりが、もっと労働対価を主張すべきだと思います。

競争原理の中に身を置いて歯科医師や患者さんとコミュニケーションをとろう

ただ、こうやって歯科技工士の立場・職業存在の確立を主張するには、自助努力が必要な競争原理の中に自分の身を置く必要があるでしょうね。 つまり、しっかり歯科医師や患者さんとコミュニケーションをとって、自費珍療の技工ができる努力をすることです。それができる人とできない人とではジャンル分けされるべきで、 同じ次元で職業観を語ることはできません。

保険診療・技工だけでは質的な競争があまりないから進歩しないし、本来の仕事に対しては非常に受け身の姿勢です。 しかしながら当然、その需要はあるわけですし、そのローコスト的な世界だけで生きていく人がいるのは構わないと思います。ただ、それだけで苦しいと、 歯科技工士すべての苦痛の代弁者のごとく不満をいうのはおかしいと思います。いずれは、競争原理の中で働いている人々や、患者本位で仕事をしている人々がつながりを作り、新しい組織を作ると思います。
そのとき、新しい歯科医師会・歯科技工士会が融合し、いろいろまっとうな価値観をもった人たちが、建設的な議論を交わしつつ、互いに専重し、健康的なコミュニケーションがとれるようになるかもしれない。 そのような環境が作れる時が来たら、おもしろいだろうと考えています.

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